2024年04月19日
膜外無痛分娩を開始した後に、『貧血になった』と患者さんが仰ることがあります。この貧血とは『立ち眩みのような感じ』『めまい』『耳鳴り』『くらくらする』『ボーっとする』などの症状をまとめた表現でされます。朝礼で立っているときに立ち眩みが起こるときと同じ症状です。実はこの『貧血』という言葉は医療用語としては正しくありません。医療で使う『貧血』は血液中のヘモグロビンという物質が少ないときに使います。ヘモグロビンは酸素を運ぶ際に必要となり、これが少ないと酸素が血液で運べなくなってしまいます。脳に酸素が回らなくなると、前述した『立ち眩みのような感じ』『めまい』『耳鳴り』『くらくらする』『ボーっとする』といった症状は出ることはありますが、これらの症状が起こるからといって必ずしもヘモグロビンが低いわけではありません。ヘモグロビンが低い理由は出血や鉄不足などがありますが、麻酔が原因でヘモグロビンは低くならないので『貧血』には当てはまりません。
では、なぜこれらの症状が麻酔後に起こることがあるのでしょうか?
2024年04月05日
では響くとき、痛いときは管が神経に近いことが原因であれば、神経に近い管はいけないのかということになりますが、近ければよく効くからいいのではないかと考えそうですが、それは違っていることを解説します。神経に近い管は大概左右どちらかに寄っていることや限局的な広がりしかしないことがあります。例えば、右の腰に響く場合、薬を開始してもそこばかり効いてしまうことになります。これは管が右腰の神経の近くに寄っているために、神経の『響く感じ』や痛みが起こり、薬を入れても、そこにしか効かないという状況になってしまうので、無痛分娩を行う上でも有効ではありません。管の挿入で『響く感じ』や痛みが起こったらすぐに伝えましょう。ちなみに麻酔を開始してしまうとこれらの『響く感じ』や痛みは麻酔によって緩和します。麻酔を止めたらまた出てきます。管を挿入したときは大丈夫でも途中で管が移動することがあり、最初は大丈夫でも、途中で痛むこともあります。
帝王切開で術後鎮痛として使用する硬膜外麻酔も同様です。『響く感じ』や痛みがあれば伝えましょう。
2024年03月22日
ネットや外来での質問の中に、以前に背中の麻酔の管を入れたときに電気が流れたような衝撃が起こったと話される方がいらっしゃいます。これは異常なのか、事故なのか、心配ないのかという質問ですが解説したいと思います。
我々が行う硬膜外鎮痛では脊髄神経(背中の神経)の近くに管を入れてきます。実際の脊髄神経までは内側から髄液、くも膜、硬膜を隔てているので、直接麻酔の管が神経を触ることは通常ありません。しかし、神経は非常に敏感なところなので、管が神経の近くに寄ってくる圧力だけでも神経症状として、『響く感じ』や痛みとして出てきます。硬膜外カテーテルを挿入する際にこれら『響く感じ』や痛みは神経の近くを通っているサインです。管が入っている感じくらいはあるかもしれませんが、『強く響く』※場合や『強い痛み』がある場合は、神経に近すぎる可能性があるので、スタッフにしっかり伝える必要があります。管を調節したり入れ替えたりすることで簡単に改善することができます。
※『強く響く』感覚はときに電気が流れたような衝撃と形容されます
2024年03月08日
日本には無痛分娩と和痛分娩という言葉があります。それらをまとめて鎮痛分娩や麻酔分娩などと言いますが、当院の分娩は和痛ではなく無痛です。
和痛にもいろいろあります。最初痛みを感じて途中から麻酔をする方法や、最初麻酔をして最後だけ麻酔を切る方法や、分娩中ずっとそれなりに痛みを感じる方法です。
当院の無痛分娩は最初から最後まで、まったく痛くない状態を目指しております。
完全に痛みを取った状態でありながら、安全性の確保は十分に行ってまいります。
大前提として、お母さんと、赤ちゃんの安全性を最重要視して、そのうえで、痛みを取っていきます。
前回和痛で、今回当院で無痛を希望される方も結構おられます。痛みが全くない状態で出産されることを体験するととても喜んでもらえ、我々もとてもうれしいです。
もし痛みをなるべくゼロにしたいのであれば、是非お勧めします。
2024年02月24日
当院で行われている硬膜外無痛分娩という方法は、脊椎の手術で異物が挿入されている場合には一般的には感染のリスクがあることや、効果にばらつきがあることから、硬膜外鎮痛ができない施設がほとんどです。
当施設では今まで、なるべく多くの方に無痛分娩を提供できる施設を目指しており、側弯症のかたや、腰椎ヘルニアの方など脊椎に変形や疾患がある方も全て受けてきました。
このたび、脊椎に広範囲に手術創があり、ロッドと呼ばれる医療器具が挿入されている妊婦の方が無痛分娩を希望され来院されました。
ご本人と相談し、硬膜外鎮痛を主体として補助的に非薬物療法による鎮痛を併用し、痛みがないお産ができましたのでご紹介いたします。十分な感染対策を行い、硬膜外カテーテルを挿入し、痛いときでも2/10くらいの痛み(10点がマックスの痛みとすると、2点くらいという意味)で鎮痛薬を使用し痛みはゼロになりました。その後の出産時の痛みもゼロでした。
今回出産された方は他の複数の施設で無痛分娩を断られ、ダメもとで当院に来院された方でした。当院では、なるべく断らない無痛分娩を行っていきたいと思います。そのためにも予想される合併症やリスクは麻酔科外来でお話しします。なるべくご期待に沿える形で産痛緩和を行いたいと思います。
無痛分娩を希望されている方は、はじめから諦めずに、一度当院の麻酔科外来を受診してみてください。
注釈:今回の内容記載に関しましてはご本人に許可をいただき、記載させていただいております。今後学会発表で硬膜外無痛分娩の適応について発表予定です。