まずは言葉の整理から
Kangaroo Care(カンガルーケア) 
Kangaroo Mother Care(カンガルーマザーケア)
skin-to-skin contact(肌と肌との触れ合い)
 
さまざまな呼び方がありますが、生まれてすぐに行うママとの接触のことをバースカンガルーケア(Birth Kangaroo Care)、またはearly skin-to-skin contact (早期接触)と言います。
 
なぜこのようにたくさんの言葉があるのでしょうか?
 
カンガルーケアの起源は、南米コロンビアのボゴダという町の病院で保育器不足を補うために導入されたものです。保育器に入るような体重の小さい赤ちゃんにとって安全で、有効なケアとして広がり、開発途上国のみならず、先進国にも広がってきました。このようにカンガルーケアは、もともと体重の小さい赤ちゃんを対象にしたもののことを示していました。近年日本では、出まれてすぐに行うママとの接触もカンガルーケアと呼ぶようになり、混乱を招いているようです。この混乱をさけるため、生まれてすぐに行うママとの接触のことを、バースカンガルーケアというようになりました。
 
バースカンガルーケアは、赤ちゃんやママにとってどんないいことがあるのでしょうか?
 
赤ちゃんが生れたらママの胸の上に赤ちゃんを乗せ、肌と肌を合わせて抱っこします。
赤ちゃんは安心して、泣くことが減り、呼吸・心拍数が安定します。赤ちゃんの体温が低下せずに過ごせます。
「泣いてないけど、大丈夫ですか」と心配されるママがいらっしゃるくらい、赤ちゃんは安定します。
 
赤ちゃんにとって、この外の世界に適応するとっても大切な時期。
生れてすぐの時間帯に、ママと赤ちゃんのきずなを築く感受性の強い時期があることがわかっています。
この時期に一緒に過ごすことはとても重要な意味があるといえるでしょう。
 
赤ちゃんは生まれて1~2時間は、分娩中に出るアドレナリンのため、はっきりと目覚めていますが、それを過ぎると数時間もの深い眠りに落ちてしまうことがあります。
その前に、赤ちゃんに乳首の感触・母乳の味、ママのぬくもりを教えてあげてください。
すぐに吸い付けなくても肌と肌が触れ合うことでそのうち、自らおっぱいを探し始めるので待ってみましょう。
分娩後、バースカンガルーケアをすることでおっぱいの分泌をよくするオキシトシンというホルモンも著しく増加します。このことは母乳だけで赤ちゃんを育てられることにもつながります。
 
このように、赤ちゃんにとっても、ママにとっても良いことがたくさんあるバースカンガルーケアですが、皆さんの中には、なんだか、危険で怖いイメージを持つ方がいるかもしれませんね。
以前バースカンガルーケア中に赤ちゃんが急変するという事例が、大きくニュースに取り上げられたことがあります。
 
赤ちゃんがおなかの中から外の世界へ適応できるようになるには、とても大きな過程を乗り越えなくてはなりません。
おなかの中にいたときは、酸素はママからへその緒を通じてもらっていましたが、赤ちゃんは肺呼吸をして自分で酸素を取り入れていかなくてはいけません。その過程で、おこる変化は生命の危機的状況ともいえるでしょう。
もしかすると、ニュースで取り上げられたような赤ちゃんは、カンガルーケアをしなくても急変していた赤ちゃんだったのかもしれません。
 
当院でのバースカンガルーケアは、安全面にも注意しています。
まずは、妊娠中に赤ちゃんの検査や処置の同意書をいただくとき、バースカンガルーケアを行いたいかどうか、ご希望をうかがっております。また、その後、バースプランを記入していただくときにもご希望をおっしゃっていただければと思います。
 
実際どのようにバースカンガルーケアを行っているかご紹介いたします。
赤ちゃんが生まれたあとママは水平ではなく、分娩台の背中を少し上げた姿勢になります。そうすることで、赤ちゃんは呼吸がしやすくなります。
ママの肌と赤ちゃんの肌が直接触れるよう、胸の上に赤ちゃんをうつぶせに抱っこします。
赤ちゃんが寒くないよう、お部屋の温度を上げ、タオルをかけ、帽子をかぶせます
呼吸状態の観察のため、体に酸素がいきわたっているかを見るモニターを赤ちゃんにつけます
もちろん、スタッフが適宜赤ちゃんとママの観察をさせていただきます。
できるだけ長い間、分娩室にいる間はバースカンガルーケアができるようにします
バースカンガルーケア中、赤ちゃんがおっぱいを探すしぐさを待ちましょう
無理におっぱいに押し付けることは赤ちゃんの哺乳行動を阻害するといわれています
産まれてすぐに抱っこする赤ちゃんは、本当に温かく、小さくて、儚い存在です。
抱っこして、たくさん触れて、話しかけてあげてください。ママの温もり、感触、声すべてが赤ちゃんに届きます。
十分なバースカンガルーケアができた赤ちゃんはその後も笑顔でいることが増え、泣くことが少ないと言われています。
一人が二人になったこと、新しい家族のスタートをぜひ赤ちゃんの温かさで感じてください。
ぜひ、赤ちゃんが生まれて間もないこの大切な時間を、バースカンガルーケアを行って大切に過ごしましょう。
文責 院長