妊婦さんから『私お酒が強いので、麻酔が効きにくいんじゃないですか?』と聞かれることがあります。ご安心ください。お酒が強かろうが弱かろうが無痛分娩は効きます。
どうしてお酒が強い人は麻酔が効かないという考えが出てきたのでしょうか?
恐らくアルコールに対して耐性ができるから麻酔も効かなくなると考えるようになったのではないかと思います。アルコールを分解する過程と麻酔薬を分解する過程で共通する酵素(チトクロームP450)があり、アルコールを常飲してその酵素が増えることで、麻酔薬も代謝されやすくなると予想されます。しかし、アルコールを常飲する人は麻酔が効きやすい可能性があります。アルコールを長期間、ある程度飲んでいる場合、肝臓に障害が起こっている可能性があります。肝臓は薬物を代謝する場所なので、肝臓に障害が残っていると麻酔薬が残存することがあります。一部の薬剤は肝臓の悪い人では目が覚めるまでに時間を要することがあります。
これらのことは全身麻酔の場合の話であり、無痛分娩にはは当てはまりませんのでご安心下さい。いくつか理由を挙げてご説明します。
①妊娠中は飲酒を控える
まず妊娠中はほとんどの方がアルコールを飲まれていないので、酵素は麻酔薬をしっかり分解してくれます。
②硬膜外無痛分娩は直接作用部位である神経の近くに作用する
全身麻酔薬は点滴から血管の中に麻酔薬が入ります。脳で作用するわけですが、同時に肝臓などで代謝を受けていくので徐々に薬がなくなっていきます。硬膜外鎮痛は硬膜外腔という場所に麻酔薬が入りますが、硬膜外腔では代謝されないため、お酒が強い、弱いにかかわらず効果があります。硬膜外に入った麻酔薬は時間とともに血管に吸収され、肝臓などで代謝されますが、血管に吸収された麻酔薬は硬膜外鎮痛には影響を与えないので、無痛分娩の効果に影響を与えません。
というわけで少し難しい解説になってしまい申し訳ありません。
ただアルコールに弱い方はアルコール消毒で皮膚が発赤しますので、お申し出ください。