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院長と麻酔科医の無痛分娩あれこれ

2020年2月の記事一覧

硬膜外無痛分娩が受けられない場合

2020年02月15日

時々外来にいらっしゃる妊婦様で「無痛分娩が受けらえますか?」と尋ねられることがあります。硬膜外無痛分娩は一部の方には向いておらず、そのような場合はご説明し、必要によっては他院で紹介させていただくことになります。

A. 硬膜外無痛分娩ができない方
① 出血傾向のある方

硬膜外無痛分娩は背中の神経の近くに針を刺すことになります。その際に血管を傷つけ出血することがあります。正常ですと血はいずれ固まり、自然に止血されますが、出血傾向のある方は止血されず出血が続き、血腫となり神経を圧迫し、神経症状がでてしまいます。そのため、出産前には必ず採血で皆様が出血傾向でないかどうかを確認しております。

② 腰椎を手術し人工物が挿入されている方

以前に腰の手術を行い、その際に人工物が腰椎に挿入されている方がいます。人工物は感染に弱く、硬膜外無痛分娩を行い、カテーテルを挿入する際に、挿入されていた人工物が感染してしまった場合、人工物を除去する手術が追加で必要になってしまうかもしれません。またこのような妊婦さんの場合、帝王切開になった場合も帝王切開の麻酔である『脊髄くも膜下麻酔』は避けたほうが良い場合があります(同じ理由)ので、24時間麻酔科医が滞在する病院に紹介させていただいたほうがよろしいかとおもいます。

③ 腰の針を刺す場所に感染が起こっている方

硬膜外にカテーテルを挿入する際は厳重に消毒し、我々もマスクや清潔な手袋を装着し、感染予防に注意しながら行います。菌やウイルスを神経の周囲に持ち込むと感染を起こし、髄膜炎、硬膜外膿瘍などになってしまいます。もともと針を刺す場所が感染していた場合、針を刺すことで菌やウイルスを神経周囲に持ち込んでしまい、様々な合併症を起こしてしまうため、硬膜外無痛分娩は適しません。
 

B. 硬膜外無痛分娩が難しい可能性のある方:硬膜外無痛分娩ができないことがあります
① 病的肥満の方

病的肥満の方の場合、皮膚から硬膜外腔までの距離が長くなり、難しくなることがあります。当院の施術者は硬膜外鎮痛に慣れておりますので、できないということはないと思いますが、時間はかかるかもしれません。

② 腰椎の手術をしたことがある方(人工物なし)

人工物が入っていないので感染については正常な方と変わりないと思いますが、腰椎の手術をしたことで、針を刺す周囲が癒着、変形している場合があります。これらは穿刺を難しくするだけでなく、硬膜外無痛分娩で使用する薬剤の広がりにも影響を与えるかもしれません。

③ 側弯症など脊椎の変形が著しい方

通常背骨はまっすぐですが、側弯症などでは背骨が弯曲しています。硬膜外カテーテルは曲がった背骨に沿って挿入することになりますが、骨の様子は皮膚を通してみることはできませんので、時間がかかることがあります。

④ 脊髄神経疾患のある方

一部の脊髄神経の病気をお持ちの方は硬膜外鎮痛に不向きな方がいらっしゃいます。疾患によって対応は異なりますので、お尋ねください。

⑤ 局所麻酔アレルギーのある方

局所麻酔アレルギーがあるかたは事前にご申告ください。一番多いのはキシロカインアレルギーですが、もしアレルギーがあるかたは、それ以外の薬剤を用い、慎重に無痛分娩を行います。

『硬膜外無痛分娩ができない方』、『硬膜外無痛分娩が難しい可能性のある方』いずれの場合も、状況によっては硬膜外無痛分娩を行えることもあるかもしれませんし、代替手段があるかもしれません。ご不明な点は当院までお問い合わせください。

帝王切開の麻酔について

2020年02月08日

当院では経腟分娩以外に帝王切開も行われています。
帝王切開には予め帝王切開を行うことが分かっている予定帝王切開と、経腟分娩をしている最中に何らかの事情により緊急に帝王切開が必要になる時や、予定帝王切開だったが、予定よりも早くに陣痛が来てしまった場合などの緊急帝王切開があります。
今回は予定帝王切開についてお話をします。
予定帝王切開が行われる理由としましては、子宮手術(帝王切開など)後、逆子(骨盤位)などが主です。
予定帝王切開の麻酔は『脊髄くも膜下麻酔』と『硬膜外鎮痛(麻酔)』の2種類が行われます。前者は術中の鎮痛に、後者は術後の鎮痛に用います。 『脊髄くも膜下麻酔』は下半身麻酔などと世間では言われ、下腹部や脚、お尻の手術などで行われており、帝王切開での一般的な麻酔方法になります。脊髄くも膜下腔という硬膜外よりもさらに内側に針を挿入し、少量の麻酔薬を注入します。管(カテーテル)は挿入しません。『硬膜外麻酔』よりも神経に近いため、少量で強力な作用があり、手術など強い痛みがある麻酔には適しています。効果は2時間ほどで、触っている感覚は残りますが、痛み、温感などがなくなります。意識があるため、赤ちゃんが産まれる瞬間もわかりますし、産声も聞くことができます。当院ではお母さん、赤ちゃんが元気であれば抱っこすることもできます。
『硬膜外鎮痛』は無痛分娩で用いられるものと同じですが、カテーテルを挿入する場所が異なり、無痛分娩の時は腰の真ん中あたりですが、予定帝王切開では背中の真ん中あたりにカテーテルを挿入します。無痛分娩では広範囲に鎮痛薬を効かせる必要があり、帝王切開のときよりも下側(腰に近いところ)から挿入します。神経の近くの硬膜外腔という場所にカテーテルを挿入しておくことで、いつでも痛み止めを神経近くに投与することができ、お腹の痛みの信号が背中の神経に伝わるところで、信号をブロックします。硬膜外麻酔を術後に使うことは帝王切開に限ったことではなく、胸やお腹の手術や整形外科などでも幅広く使用され、安全に確実に痛みを取り除いてくれます。近年では硬膜外麻酔を帝王切開術後鎮痛に用いない施設も多くなってきました。しかしそれでは術後鎮痛には不十分と考えており、当院では『硬膜外鎮痛』を術後鎮痛に用いています。
術後鎮痛は『硬膜外鎮痛』以外にも内服薬があります。通常痛くなったら痛み止めを内服しますが、当院の場合は痛くなる前に定期的に内服を行います。こうすることで、痛くなってから内服するよりも早い段階で鎮痛が行うことができます。それでも痛い場合は座薬や点滴からの痛み止めを行います。
術後の痛みは離床、歩行を妨げます。離床が進まないと深部静脈血栓と言って足の静脈に血の塊(血栓)ができてしまうことがあり、この血栓が肺の血管に飛ぶ肺血栓塞栓症(飛行機などではエコノミークラス症候群やロングフライト症候群)になってしまうかもしれません。この合併症は重篤なものなので、予防する必要があります。また赤ちゃんを抱っこする機会が減ってしまうことのないように、十分に疼痛緩和が必要と感じています。
このように当院では帝王切開の痛みに関してもしっかり取り除くことに力を注いでおります。『硬膜外鎮痛』、内服薬など複数の方法や薬剤を用いた鎮痛をmultimodal analgesiaと呼び、痛みを減らす手段として重要視されており、帝王切開で出産される方々も術中のみならず術後も含めて快適に過ごしていただけるようにいたします。

安全な無痛分娩を行うために求められる医療体制(診療体制について)

2020年02月01日

2018年3月29日付で無痛分娩の実態把握及び安全管理体制の構築についての研究グループ(代表海野信也)が公表した『無痛分娩の安全な提供体制の構築に関する提言』についての解説第3回です。今回がこの提言開設の最終回です。提言の内容としては他の内容にも提言を行っていますが、学会へのインシデントアクシデントの報告やワーキンググループ設置などこのコラムの中での開設の必要はないと考え、今回が最後の解説となります。
今回は『診療体制』についてです。

提言の中で無痛分娩麻酔管理者、麻酔担当医、無痛分娩研究修了助産師・看護師を配置することとなっています。
① 無痛分娩麻酔管理者はその施設での無痛分娩の責任者であり、助産師や看護師の教育、施設方針、無痛分娩マニュアル、危機対応シミュレーション開催などが仕事になります。 無痛分娩麻酔管理者になれる要件として、常勤医師、麻酔科標榜医以上または産婦人科専門医、定期的な講習会受講が挙げられます。
② 麻酔担当医はその施設で無痛分娩を実際に行う者です。妊婦さんの観察、薬剤投与、記録と管理、麻酔開始直後の妊婦さんの集中的管理、無痛分娩中は迅速に対応できるように待機などを行います。 麻酔担当医の要件として、麻酔科標榜医以上または産婦人科専門医、定期的な講習会受講、十分な能力(硬膜外麻酔100例以上、安全確実な気管挿管)が挙げられます。
③ 無痛分娩研修修了助産師・看護師は母子ともに安全で家族も納得のいく分娩を支援、異常が児予測される際に医師と連携し安全を確保、無痛分娩中の全身状態やバイタルサインの観察を行い報告します。 無痛分娩研修修了助産師・看護師の要件には新生児蘇生ができる(NCPRの資格※1)、定期的な講習会受講などがあります。

安全管理対策として、無痛分娩マニュアルや無痛分娩看護マニュアル作成、施設内勤務者が参加する危機対応シミュレーションを少なくとも年1回施行する必要があります。 それ以外にも緊急時に必要な設備、医療機器などを取りそろえておく必要があります。 設備や機器として、気管挿管を行うための器具、除細動器、生体モニターなど 薬剤はアドレナリンなどの強心剤、プロポフォールなどの鎮静薬、ロクロニウムなどの筋弛緩薬など

今回紹介した提言が無痛分娩を行う施設で必須化されれば、どこの施設でもある程度安全な無痛分娩は行えると考えられます。しかし今回の提言には強制力はなく、各医療施設が自主的に提言をもとに安全管理を行っています。そのため、安全な無痛分娩を行うためには無痛分娩を受ける妊婦の皆様と家族の皆様が十分に調べたうえで施設を決めることが重要になるでしょう。
※1NCPR:周産期新生児医学会の新生児蘇生法普及事業が行っている新生児の心肺蘇生法になります。

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